患者さんそれぞれに合った治療の選択
-インスリンポンプなど様々なデバイスを活用して-
糖尿病治療デバイスの選択
近年、糖尿病治療デバイスは目を見張るような進歩を遂げており、治療の選択肢が広がりつつあります。インスリン療法に関するデバイスには「血糖測定デバイス」と「インスリン注入デバイス」があり、治療の際は各デバイスを患者さんのニーズに合わせて選択することが求められます。
①血糖測定デバイス
検査室での検査や臨床現場即時検査(point of care testing:POCT)など、かつては医療従事者が主体となって血糖測定や管理を行なっていましたが、1986年に血糖自己測定(self-monitoring of blood glucose:SMBG)が保険適用となって以降、患者さんが主体となって血糖測定や管理を行えるようになりました。SMBGは患者さん自身で血糖値を測定することができるため、日々の血糖コントロールや病態の把握に役立ちます。その反面、SMBGによる測定は、1日に複数回の穿刺が必要なため患者さんにとって負担になりやすく、穿刺に伴う衛生上の問題も発生します。また、SMBGによる測定だけでは連続的な血糖変動が把握しにくく、測定ポイント間で発生した高血糖・低血糖を見逃してしまう可能性があります。
2010年に保険適用となった持続皮下グルコース測定(continuous glucose monitoring:CGM)は、皮下に留置したセンサーフィラメントで間質液中のグルコース濃度を測定し、血糖値を推定します。CGMによる測定は連続的な血糖変動を把握できる点で有用ですが、推定血糖値と実際の血糖値との間で数値的・時間的な乖離が生じることがあります。そのため、例えば低血糖からの回復時に、実際の血糖値よりも高く見積もってしまいインスリンを過剰に投与してしまう可能性も考えられ、CGM使用の際は血糖変動を注意深く見極めることが必要となります。
2018年、間質液中のグルコース濃度を継続的かつ自動的に測定するCGM(リアルタイムCGM)が保険適用となり、血糖モニタリングデバイスの選択肢が増えました。現在国内で使用できるリアルタイムCGMのひとつである「Dexcom G4 PLATINUMシステム」は、SMBGを用いた血糖値のキャリブレーションが1日2回必要ですが、1つのセンサーで7日間ほどの連続的な血糖変動の記録が可能です(図1)。加えて、高値・低値が発生した際にアラートされる機能があり、特に無自覚低血糖の傾向がある患者さんに対して有用であると考えられます。
②インスリン注入デバイス
インスリン注入デバイスには、ペン型注入器とインスリンポンプの2種類があります。ペン型注入器はさらにディスポーザブル型と詰め替え型に分けられ、利便性や費用の観点から患者さんに適した選択が可能です。また、2015年にはリアルタイムCGM機能を搭載したインスリンポンプ(sensor augmented pump:SAP)が保険適用となり、インスリン注入デバイスの選択の幅が広がっています。
近年、インスリン注入デバイスの選択肢として「パッチ式インスリンポンプ」が開発され、国内ではテルモ株式会社の「メディセーフウィズ」が2018年より販売されています(図2)。メディセーフウィズはチューブレスのインスリンポンプであり、タッチパネル式のリモコンで操作することが特徴のひとつです。この特徴により、メディセーフウィズを装着しながらワンピースを着ることが可能になるなど、チューブありのインスリンポンプと比較して服装の制限が少なくなることが考えられます。糖尿病患者である私自身、医学部での臨床実習の際に、チューブありのインスリンポンプを使用していたため手術着に着替えるのに手間取った経験がありますが、パッチ式インスリンポンプはこのような服装の問題を解決できる可能性があります。
国内のインスリンポンプ使用者数は、2019年時点で推計約1万人であることが報告されています1)。一方で、厚生労働省の調査班による報告では、レセプト情報・特定健診等情報データベース(NDB)を用いて推計された国内1型糖尿病患者数は、約10〜14万人とされています[第一次集計:140,996名、第二次集計:117,363名(1型糖尿病)、92,280名(インスリンが枯渇した1型糖尿病)]2)。これらを踏まえると、国内でのインスリンポンプ普及率は7〜10%であると推測され、諸外国と比べて低い傾向にあると考えられます。今後は、インスリンポンプによる治療をより向上させるために、諸外国と比べてインスリンポンプ普及率が低い原因について検討していくことが必要です。
今後の展望
糖尿病治療では、患者さんの事情や嗜好性に適したデバイスを選択することが重要です。インフォームド・チョイスの時代となりつつある中で、医療従事者は各デバイスに関して十分な情報提供を行い、患者さん自身がベストであると思える選択ができるようサポートすることが望まれます。
技術的な側面では、精度の向上や人工膵島、インスリンポンプと血糖測定デバイス間の連携による「クローズドループシステム」のさらなる進歩が望まれます。海外では、CGMを開発している企業とインスリンポンプを開発している企業がタッグを組むことでクローズドループを実現した事例があり、国内でもクローズドループシステムによる治療が実現されることに期待しています。
最後に強調しておきたいこと
糖尿病治療デバイスの進歩には目を見張るものがある。
専門医であれば全てのデバイスに精通して、患者さんがベストと思えるものを選択できるサポートをすることが望ましい。
1つの施設内で全てのデバイスを揃えることが難しいこともあり、患者さんの希望するデバイスが自施設で使用できない場合は、使用可能な施設へ紹介することも検討していただきたい。
一方で、デバイスの変更により解決できることは限られている。糖尿病治療では治療の中身が重要であり、デバイス選択に関係なく治療の基本をおろそかにすべきではない。
文献
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1)山下 滋雄. 臨床栄養. 136(6)p767-80, 2020.
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2)厚生労働科学研究費補助金(循環器疾患・糖尿病等生活習慣病対策総合研究事業)
「1型糖尿病の実態調査、客観的診断基準、日常生活・社会生活に着目した重症度評価の作成に関する研究」
分担研究報告書「NDBを活用した日本における1型糖尿病およびインスリン分泌が枯渇した1型糖尿病の有病者数の推定」
講演者
独立行政法人 地域医療機能推進機構(JCHO)
東京山手メディカルセンター 糖尿病内分泌科
山下 滋雄 先生
- 実施日
- 2020年10月19日
- 実施場所
- 糖尿病先端治療デバイスweb講演会(m3.com)