パッチ式インスリンポンプを用いた糖尿病治療
−安全で有効な活用を目指して−

糖尿病治療の現状とパッチ式インスリンポンプの紹介

①1型糖尿病治療の選択肢とパッチ式インスリンポンプの有用性

現在、国内で保険適用となっている1型糖尿病治療は、頻回注射(multiple daily injection:MDI)療法や持続皮下インスリン注射(continuous subcutaneous insulin infusion:CSII)療法、α-グルコシダーゼ阻害薬・SGLT2阻害薬などの内服薬、膵移植・膵島移植があります。MDI療法やCSII療法といったインスリン治療では、インスリン製剤の種類が近年でさらに増加しており、インスリン作用の発現時間や持続時間の違いによって様々な選択が可能です。さらに、CSII療法で使用するインスリンポンプについても、2018年よりパッチ式のインスリンポンプが国内で使用可能になるなど、CSII療法での選択の幅が広がりつつあります。

海外では、パッチ式インスリンポンプの有用性について検討した研究が多数報告されています。2018年に報告された後ろ向き研究では、20歳未満の1型糖尿病患者2,529例(MDI療法からパッチ式インスリンポンプ治療に切替えた患者660例、MDI療法患者1,869例)が登録されたドイツおよびオーストリアのDPV(Diabetes Patienten Verlaufsdokumentation)レジストリデータベースをもとに、MDI療法からパッチ式インスリンポンプ治療への切替え後3年時点までの有用性が検討されました1)。パッチ式インスリンポンプ治療群のHbA1c値は、MDI療法群と比較して、切替え後1年時点で有意に低値であったものの[HbA1c値(平均値±SE):パッチ式インスリンポンプ治療群7.5±0.03%、MDI療法群7.7±0.02%;p<0.001]、切替え後2年および3年時点においては、有意差は消失していました。ただし、パッチ式インスリンポンプ治療群の1日あたりのインスリン投与量は、切替え後1年、2年、3年時点のいずれにおいても、MDI療法群と比べて有意に低値でした(いずれもp<0.001)。

②パッチ式インスリンポンプ「メディセーフウィズ」の特徴と当院での使用経験

パッチ式インスリンポンプである「メディセーフウィズ」は、チューブレスであることやリモコン操作ができることが特徴として挙げられます。これらの特徴により、チューブに起因するトラブルが発生しないこと、ポンプ装着時における服装の自由度が高まることなどの利点が考えられますが、ポンプ本体を直接皮膚に貼り付けるため、従来品に比べ貼付テープの剝がれや、皮膚トラブルが起こりうることを念頭に置いて患者さんに使用していただく必要があります。

発売開始後、メディセーフウィズは、パッチ式インスリンポンプで起こってきたトラブルの改善を目的として製品仕様変更が加えられています。例えば、高血糖の一因となるテープ剝がれを防止するために、カニューレ穿刺部位周辺の貼付テープ面積を拡大したり、留置セットのカニューレとポンプのカートリッジとの接続不良を防止するために、留置セットにポンプ接続のガイド形状を付けたりといった点が変更されました(図1)。

当院では、2018年7月から2020年7月までに計20名の糖尿病患者さんにメディセーフウィズを導入しています。そのうち、仕様変更前のメディセーフウィズを導入した7名では、導入後1ヵ月以内に計14件のトラブルの発生が確認され、全員が高血糖、ポンプ故障、皮膚トラブル、テープ剝がれのトラブルのいずれかを経験し、また高血糖の発生率は79%でした(図2)。仕様変更後(2019年4月)から2020年7月までに導入した患者さん13名では、計11件のトラブルが確認され、その内訳として高血糖、カードリッジ内液漏れ、皮膚トラブル、重症低血糖、テープ剝がれがありましたが、高血糖の発生率は23%でした(図2)。高血糖の原因としては空気混入、留置セットとポンプとの接続不良、インスリン残量不足、テープ剝がれ、インスリン注入不良などの可能性がありましたが、仕様変更によってこれらの原因の一部が解消されたと考えています。一方、2015年3月から2017年10月までに当院でパーソナルCGM機能が搭載されたインスリンポンプ(sensor augmented pump:SAP)を導入した患者さん44名では、チューブに起因する(ライントラブルによる)高血糖の発生率が17%であり、仕様変更後のメディセーフウィズの高血糖の発生リスクはSAPと同程度であり、パッチ式という製品起因による高血糖は改善しつつあると推測されます。

メディセーフウィズ変更点
仕様変更前後のトラブル内訳

③血糖測定デバイスの進歩

インスリン治療の進歩とともに、血糖測定デバイスである持続皮下グルコース測定(continuous glucose monitoring:CGM)機器の性能も向上しており、1型糖尿病治療におけるCGMの需要が年々高まっています。患者さんが主体となってグルコース測定値を管理できるCGMには、間歇スキャン式CGM(intermittently scannedCGM:iCGM)やリアルタイムCGM(real time CGM:rtCGM)があります。国内で使用可能なrtCGMのひとつである「Dexcom G4PLATINUMシステム」は、高血糖・低血糖予防のためのアラート機能が搭載されていることが特徴として挙げられ、高血糖・低血糖がしばしば発生して血糖コントロールを悪化させてしまう患者さんにとって有用であると考えられます。

今後の1型糖尿病治療について

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行が1型糖尿病治療に影響を及ぼした経験から、1型糖尿病患者さんへの治療を今後どのように行うべきかについて検討していく必要があります。例えば、海外では1型糖尿病治療が遠隔診療により行われた事例が多数報告されており、感染症対策として患者さんの診療を遠隔で行うことについても検討が必要です。

2020年に報告されたイタリアでの後ろ向き研究では、ロックダウンに伴う外出制限下における遠隔診療の一環で、ハイブリッド・クローズドループ(hybrid closed loop:HCL)システムのインスリンポンプを使用した1型糖尿病患者13例を対象に、身体活動(定期的な週3時間以上の運動)の有無が血糖コントロールに及ぼす影響が検討されました2)。その結果、ロックダウン開始後の2週間におけるtime in range(測定グルコース値が70-180mg/dLであった時間の割合)は、身体活動なしの患者と比べて身体活動ありの患者で有意に高値でした(p<0.05)。

現在、コロナ禍で当院でも必要に応じて1型糖尿病患者さんに電話診療を行うこともありますが、日本全体でみると現時点では遠隔診療の体制は整っておりません。今後は、医療面のみならず多分野での電子データ管理システムやセキュリティ体制を整えることは日本全体の急務であり、電子媒体を適切にまた安全に使うために国主動で取り組んでくれることを望んでおります。

最先端デバイスの観点からは、前述のHCLシステムのインスリンポンプのように、モデル予測制御アルゴリズムに基づく追加インスリン注入機能により、血糖コントロールを自動的にサポートするインスリンポンプの実用化も国内で近い将来期待されています。一方、2020年には、テルモ株式会社とDiabeloop社との間でインスリン自動投与制御(automated insulin delivery:AID)システムの共同開発契約が締結されており、投与制御アルゴリズムに基づく自動的な血糖コントロールが国内で実現されることが今後期待されます。

おわりに

糖尿病治療をより良いものにするためには、CSII療法などのインスリン治療や膵島移植などの最先端医療を患者さんに合わせて適切に選択する必要がありますが、治療手段の選択だけではなく、血糖コントロールの観点から適切な食事や適度な運動を心がけるよう患者さんに指導することも必要です。また、より良い治療のためには、患者さんの治療意欲や精神面が安定することも重要であり、メンタルケアの専門家を交えて患者さんの状況を把握しつつ、治療を進めていくことが望ましいと考えられます。メーカー側には、より良い製品を開発してインスリン治療デバイスの潜在的なニーズをさらに満たしていただくことで、より質の高い医療が提供されることを期待しています。

文献

  • 1)Danne T, et al. Pediatr Diabetes. 2018 Aug; 19(5): 979-984.

  • 2)Tornese G, et al. Diabetes Technol Ther. 2020 Jun; 22(6): 462-467.

講演者

東京女子医科大学 糖尿病センター

三浦 順之助 先生

実施日
2020年12月23日
実施場所
糖尿病先端治療デバイスweb講演会(m3.com)

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