パッチ式インスリンポンプの使用経験とチーム医療

患者さんの利便性を求めたインスリンポンプの進歩

1980年代前半に私たちがCSII(Continuous Subcutaneous Insulin Infusion)を始めたときは、手動でベースのレートを設定していました。その後、プログラムポンプやリアルタイムCGM(Continuous Glucose Monitor)が登場し、さらに両者を合体させたSAP(Sensor Augmented Pump)が発売されました。これにより、一つの機械で血糖を測りながらインスリンポンプの役割を果たせるようになりました。さらに低血糖のアラーム、血糖低下または上昇速度のアラートが出るなど、適切な血糖管理を支援する機能があります。

2018年にテルモから発売されたパッチ式インスリンポンプ(MEDISAFE WITH)の大きな特徴は、チューブがないことです。これまでのインスリンポンプは、機械と刺入部の間のチューブを通してインスリンが注入されるため、刺入部は皮膚ですが機械はほぼ外にあり、機械を装着していることが患者さんの重荷になったり、機械の装着のために衣服に一定の制約があるといったことがあります。その点、チューブフリーのMEDISAFE WITHは、皮膚に直接ポンプを貼るデザインのため、普通の衣服で、操作もスマホ感覚のリモコンで行うことができ、患者さんの利便性が高いポンプだと言えます。

生理的な分泌に近いインスリンデリバリーを実現するCSII

血糖値とインスリンのメカニズムを正しく理解する

インスリンは血糖値が上がってから分泌されるのではなく、血糖値の上昇を抑えるために分泌されるため、食後も含めて血糖値は1日中ほぼフラットに保たれています。そのメカニズムは、腸管から食物が吸収される際に分泌されるGLP-1(Glucagon-Like Peptide-1)が速やかに神経系に受容されて脳に到達し、脳がインスリン分泌を速やかに促すため、糖質が吸収されて門脈に届くころにはインスリンは十分に門脈内に分泌され、肝臓で糖の処理が行われます。そのため、末梢血中のブドウ糖は少量となり、その結果として血糖値は常にフラットになると考えられています。CSIIでは、生理的なインスリン分泌と同様に、血糖値上昇を抑えるためにインスリンを投与することが可能になります。大切なことは血糖値が上昇するからインスリンが出るのではなく、血糖値が上昇しないようにインスリンが出るということです。ポンプを使用する際にも血糖が上昇したからインスリンを追加するのではなく、状況に応じて血糖が上昇しないようにあらかじめインスリンを調整しておくことが大切であり、このことをよく理解しておく必要があります。

インスリン必要量に応じたインスリンデリバリーの設定が可能

基礎インスリン必要量は、1日の中で大きく変動します。11~20歳の夜間インスリン必要量を1u/hとすると、日中のインスリン必要量は0.7u/hと約3割違います。60歳以上では、インスリン必要量は最少で0.3u/h、最大で0.6u/hと約2倍の変動があります。一般的に基礎インスリン製剤には、日差変動、日内変動が少ないフラットな作用特性が最も重要視されています。しかし、日内で大きく変動する基礎インスリン必要量に対してフラットなインスリン量を与えると、必要量が多いときは血糖値が上がり、少ない時間帯には血糖値は下がり、大きな血糖変動が起こる可能性があります。一方CSIIでは、基礎インスリン製剤を用いた頻回注射と異なり、インスリン必要量の多いときにはインスリンデリバリーを増やし、少ないときには少なくすることが可能です。

インスリンポンプ導入の必要条件は、患者さんが血糖コントロールを"自分事"化すること

患者さんの生活環境を理解し、トラブルに対処できるチーム体制を整備

治療法の選択には、詳細な問診が必要です。患者さんの職業、趣味、日常生活、食事、糖尿病治療に対するモチベーション、注射や内服に対する感覚、低血糖に対する感情やリスクの高さ、通院、家族歴などの情報を患者さんと共有し、それらを治療に結びつけていくことが最も重要なことだと思います。

インスリンポンプにはさまざまなトラブルが起きますが、これらに対して適切に対処できる十分な知識を持つことが必要です。さらに当院では、25年のインスリンポンプの経験があるCDEJ(Certified Diabetes Educator of Japan)が中心となってチーム医療体制を構築して、すべての患者さん情報を把握して共有し、トラブルに対して毎回同じスタッフが24時間サポートできることを患者さんに理解してもらい、安心感を与えられるようにしています。

自分で血糖コントロールを改善できた自信が患者さん本人の治療意欲を高める

インスリンポンプの外来導入症例を紹介します。患者さんは20歳前後、工学部の大学生で、幼児期に1型糖尿病を発症し、小児科から当院内科へ紹介受診となった方です。いつも母親と来院し、ほとんどの治療は母親が主導しており、本人の治療に対するモチベーションは高くありませんでした。

この患者さんに対する治療方針として、小児科から内科へのトランジションがまず重要であり、そのためには母親からの独立、自己管理意識の啓発と本人の知識の確認、SMBG(Self Measurement of Blood Glucose)の再開による血糖パターンの把握、責任インスリンと自己調節、超速効型やCSIIなどその他の治療方法の紹介、必要な知識と情報提供などが必要でした。その結果、理工系であるため機器に興味を覚えたことがSMBGの再開やCSII導入のきっかけとなり、責任インスリンの理解などでインスリン量の調節が可能になりました。同時にコントロールが改善したことが本人の自信につながり、インスリン治療へと取り組む意欲が高まりました。計画的に説明しながらCSIIを導入することで、あらかじめ導入後の生活がどのようになるのかを具体的にイメージできたことが不安感の軽減につながったと思います。導入後も電話でのサポートで頻回にコンタクトを取ることで安全に治療を継続できています。

実は当院でもお仕着せのポンプ導入で脱落した経験があり、インスリンポンプを導入する患者さんにとっての必要条件は、まず、血糖コントロールを“自分事”として捉えることだと思います。

ポンプの初期設定や患者対応のコツ 当院での工夫

初めてインスリンポンプを導入する際には、その設定法が最も難しい点だと思います。私は、頻回インスリン注射の基礎投与量の7掛けを24時間で割ってbasal rateとし、基礎注入量を最初はプログラムせず一定の状態としておきます。患者さんには、24時間対応できることを伝え、トラブルでポンプが止まった際の備えとしてペンタイプの注射を渡し、投与量もあらかじめ指示しておきます。初めて導入したときには、血糖値がうまくコントロールできているかどうかを何度も電話で確認したり、患者さんに来院してもらっていました。しかし、最近ではis-CGMのデータ専用ソフトを用いることで、患者さんがスキャンするたびにスマホから自動的にグルコース値がアップロードされ、医療機関側は24時間リアルタイムで患者さんのグルコース値がモニターできるようになりました。その都度適切な指示を患者さんに出すことができるため、これはインスリンポンプの導入に際しては、非常に有力なツールになると思います。

当院におけるMEDISAFE WITHの使用経験

当院ではこれまで8例でMEDISAFE WITHを導入しました。その内訳は頻回インスリン注射からの切り替えが1例、他の機種からの切り替えが7例です。すべて外来導入で、全例1型糖尿病です。そのうち6例が継続しています。

現在MEDISAFE WITHを使用している患者さんの声として、「洋服の制限がなくなって、浴衣やワンピースが着れて嬉しい」「以前はちょっとした動作でドアノブなどにチューブが引っかかって外れていたが、それがなくなった」「子供がラインをいじって誤って外してしまうことがなくなった」「リモコン式が楽」「ボーラス操作はスマホを扱っているようで、友人との食事のときも気が楽になった」などがあります。一方、「消耗品が大きい」「本体に厚さを感じる」という声もありました。

導入後、継続せずに中止した2例のうち、1例は患者さんがお亡くなりになりました。後に使用時の血糖モニタリングのデータおよびポンプの履歴を確認したところ、機械は正常に動作しており、ポンプの因果関係はなしと判断されました。もう1例は、リモコンの動作が遅いことや毎月処方される消耗品の大きさ、テープの剥がれやすさといった理由で中断しました。無自覚低血糖を頻発されていたこともあり、MEDISAFE WITH導入前に使用していたSAP機能のある他社ポンプに戻りました。テープの剥がれやすさについては、すでにテープ面積の拡大という対応がメーカーによってなされています。その他の重篤なトラブルとして、ケトアシドーシスで入院になった症例を1例経験しています。この症例に関しては、操作面でインスリンポンプと注入ポートの接続が不十分でインスリンが外に漏れてしまっていたことが判明しています。この点についてもメーカー側が、さらなる操作性向上のために、ガイド取り付け対応を実施し、確実に接続しやすい仕様に変更しています。

医療者は常に情報をアップデートし、患者さんに十分なサポートを

インスリンポンプは進化を続けています。ポンプ導入には、患者さん側のモチベーション、あるいは血糖、デバイスに対する理解が必要です。同時に医療者側においては、血糖制御機構およびデバイスに対する深い知識と理解が必要です。また、十分なサポートを提供して患者さんに安心感を与えることが導入の必須の条件と考えます。このようにポンプ導入時の十分なサポート体制の実現という点において、小さなチームを持つ糖尿病クリニックの可能性は大きく、糖尿病クリニックの外来におけるポンプ導入の拡大が望まれます。さらに、リアルタイムの血糖遠隔モニターシステムを用いることによって、インスリンポンプの経験の少ない先生方にとっても、インスリンポンプ導入が容易になる可能性があると思います。

講演者

医療法人大樹会 みながわ内科クリニック理事長

皆川 冬樹 先生

実施日
2021年5月21日
実施場所
糖尿病先端治療デバイスweb講演会(m3.com)

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