実地医家におけるインスリンポンプ導入・指導の実際
~パッチ式インスリンポンプを中心に~

多職種のスタッフによるチーム医療で患者さんを支えるクリニック

当院では、医師や看護師・管理栄養士・臨床検査技師に加え、理学療法士や臨床心理士などを含めた多職種のスタッフによるチーム医療を実施しています(図1)。2021年6月現在、当院の通院患者数は疾患別で2型糖尿病1010名、1型糖尿病79名であり、その他の内分泌疾患をもつ患者さんも多数通院されています。また、通院患者さんのうち90名ほどはオンラインでの診療を実施しています。

チーム医療の図

糖尿病の治療デバイス選択における、Shared decision makingという考え方の実践

近年、糖尿病治療で使用できるデバイスが増えており、インスリン注入デバイスと血糖測定デバイスの組み合わせにより、さまざまな治療法の選択が可能となりました。その半面、各治療法の有用性についてのエビデンスに大きな差はないと考えられ、多様な選択肢の中から患者さんに最適な治療法を選択することが重要となります。当院では、最適な治療法を患者さんとともに選択するため、Shared decision making(SDM)の考え方を基に診療を行っています。
SDMとは、患者さんと医療従事者が明確なエビデンス情報を共有し、双方の対話を通じて治療方針を決定(共有意思決定)していく考え方のことです。Informed consentによる従来の決定プロセスは、対話する前から「医療従事者が示す選択肢」への着地が期待される側面があり、患者さんが医療従事者による示唆的な誘導の影響を受けやすいとされています。一方、SDMでは、対話する前は患者さんも医療従事者もどの選択肢に着地するか分からず、双方の対話を通じて患者さんの治療目標が共有されます。そのため、SDMは治療の選択肢が多い場合に有用なカウンセリングモデルと考えられます。糖尿病治療についてSDMプロセス(図2)を実践する際は、双方が積極的に情報共有する必要があるため、治療選択のコンセンサスに至るまで最長1〜2時間程度かかる場合もあります。しかし、そのプロセスは双方が最適な糖尿病治療を目指すうえで意味のあることだと考えています。
医療従事者は診療ガイドラインを治療法選択の決定的なモデルとして説明してしまいがちな側面があります。治療法選択でエビデンス重視に偏りすぎると患者さんの意思を抑圧してしまう可能性があるため、当院では、診療ガイドラインはあくまでも「治療の意思決定をするための推奨文書」であることを共通認識として持つよう心掛け、できるだけSDMの考え方で治療方針を決定するようにしています。また、SDMプロセスでは最適な治療を患者さんとともに決めていくという姿勢が重要ですが、患者さんが新しい治療法を選択された場合は、医師による診察、看護師による採血・合併症管理、管理栄養士・理学療法士による療養指導などの適切な役割分担により患者さんを管理することも重要になります。そのため、糖尿病治療でSDMプロセスを実践するには、院内のチーム医療を推進していく必要があると考えています。

Shared Decision Makingのプロセス図

治療デバイス導入前から導入後までの一貫したフォローアップで、アドヒアランスの向上を目指す

① 導入前 ― SDMの実践で離脱を低減

現在、当院では1型糖尿病患者さん31名がインスリンポンプを使用しており、そのうちの22%にあたる7名がパッチ式インスリンポンプ「メディセーフウィズ」を使用しています。当院でメディセーフウィズの導入を開始した当初は、スキントラブルを起こすケースがしばしばみられたことに懸念がありましたが、SDMの過程で自らメディセーフウィズを選択した患者さんは離脱が少ない印象があり、使用を希望する患者さんも徐々に増えています。

② 導入時 ― 他機種との違いや機器の特徴を丁寧に説明し理解を深め、アドヒアランスを高める

メディセーフウィズはチューブレスであることが特徴であり、それにより服装選択への制約も比較的少なくて済むため、特に女性の患者さんにとっては治療のアドヒアランスが向上するポイントであると考えられます(図3)。さらに、従来インスリンポンプと比較してチューブの充填が不要であり、カニューレ留置の操作もシンプルであることも利点として挙げられます。その一方、構造的な制約によりインスリン容量が200単位と他のインスリンポンプと比較して少ないため、1日あたりのインスリン投与量が多い患者さんには注意が必要です。
さらに、レジメンに関する機能においても他のポンプと異なる特徴があり、特に他のポンプからの切り替えの際は患者さんへの指導が不可欠となります。ボーラス投与方法のうち、一定時間(30分〜8時間)に均等量のボーラスを投与する「ロングボーラス」や通常のボーラス投与の後にロングボーラスを行う「組合せボーラス」を使用した際は、基礎インスリンの投与が中断される仕様のため、あらかじめ患者さんに指導しておく必要があります。また、ボーラス計算機能の仕様として「食事のためのインスリン量」と「血糖補正のためのインスリン量」の合計から「残存インスリン量(先行して投与したボーラス注入量のうち、体内に残っているインスリン量)」が必ず差し引かれるため、ボーラス投与量を決める際は残存インスリン量も考慮するよう患者さんへの指導が必要です。
上記の機能面の特徴に加えて、メディセーフウィズにはCGMとの連携機能がないことも、メディセーフウィズを導入するうえで考慮すべきポイントとなります。CGMとの連携が有効と考えられる、細かな血糖管理が必要な患者さんには不向きな側面がありますが、CGMとインスリンポンプの併用は患者さんの負担金額が大きくなるため、コスト面やアドヒアランスの観点から、患者さんに適した治療法を選択することが大切です。

メディセーフウィズシステム図

③ 導入後 ― デバイス使用時に起こりうるトラブルと対処方法

インスリンポンプや持続皮下グルコース測定(CGM)といった治療デバイスを導入した際に起こりうるトラブルの中でも、特にスキントラブルを改善することはアドヒアランスを向上させる重要なポイントであると考えられます。当院では、スキントラブルの改善策として保護膜形成剤やドレッシング材などの使用を指導していますが、スキントラブルには個人差があり、患者さんによっては改善されないこともあります。当院の通院患者さんの中には、スキントラブルの改善策を自ら工夫している方もおり(例:CGMの接着面に水分が侵入することによる肌荒れ防止のため、フィルム剤でCGMの周りを貼る)、トラブルに対して自ら工夫していく意識を患者さんと共有し改善につなげていくことも、導入した治療法のアドヒアランスを向上させるうえで大切であると感じています。

COVID-19感染症禍におけるデジタルヘルスケアの取り組み

昨今のCOVID-19感染症禍の影響により、特に1型糖尿病患者さんを診療している病院では、感染症防止のための根本的な対策が求められています。糖尿病クリニックでは、採血などの診療時や療養指導の一環であるトレーニング指導時に「密集・密閉・密接」のいわゆる3密空間が発生しやすく、そのような状況を避けるためデジタルヘルスケアの導入・運用を推進していく必要があると考えられます。国内においては、2020年4月からの時限的措置によりオンライン診療が可能となりましたが、オンラインでは患者さんとの信頼関係がないとコミュニケーションが取りづらく、初診患者さんの場合は対応が難しい印象があります。そのため、当院ではCOVID-19感染症の発熱外来を除き、あくまでも再診以降の定期診察をメインとしてオンライン診療を活用しています。
かかりつけ医による1型糖尿病患者さんの定期診察は、従来、日常的に測定した血糖値(または間質液中のグルコース値)データを確認しながら生活習慣について聞きとりをする形で行われるため、画面上でデータを共有できるオンライン診療との親和性が高いと感じています。診療報酬のオンライン診療料の算定要件として、日常的に対面診療が可能な患者さんに同意を得たうえで、3ヵ月に1回の頻度で対面診療を実施することが必須となります(令和2年度診療報酬改定に基づく)。そのため、当院では1型糖尿病患者さんに3ヵ月に1回のみ来院、それ以外はオンライン診療で済ますケースが増えており、特に遠方から来院している患者さんにとって有益であると実感しています。さらに、オンライン診療では医師による診察とともにスタッフによる療養指導も行うことができるため、デジタルヘルスケアの運用はチーム医療を実践するうえでも有用であると考えられます。
当院では、感染対策の影響で糖尿病教室が開催できなくなったことを考慮し、理学療法士と協力して運動療法の解説動画を作成しオンライン上にアップロードするなど、試行錯誤を重ねながら患者さんへの啓発活動も行っています。今後も啓発活動としてオンラインツールをどのように運用していくべきか、トライ・アンド・エラーを続け、患者さんへの適切な療養指導につなげていきたいと考えています。

おわりに

糖尿病治療デバイスの開発や導入が年々進んでいる中、我々医療従事者は治療選択肢を検討する際に「新しいものは優れている」という認知バイアスに注意する必要があります。優れたアルゴリズムを採用したデバイスを導入したとしても、必ずしも患者さんの利益につながるわけではなく、従来の治療法を必要とする患者さんもいることも念頭に置く必要があり、糖尿病治療においては、患者さんとともに最適な治療法を選択・導入していくことが重要であると考えています。

講演者

林医院

林 功 先生

実施日
2021年7月29日
実施場所
糖尿病先端治療デバイスweb講演会(m3.com)

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