パッチ式インスリンポンプの使用経験と外来導入の実際

強化インスリン療法の基礎知識

1型糖尿病に対する強化インスリン療法は、ペン型注入器を用いた頻回注射(MDI)療法やインスリンポンプを用いた持続皮下インスリン注入(CSII)療法によるインスリン補充と、血糖自己測定(SMBG)や間歇式スキャン持続血糖測定器(isCGM)、リアルタイムCGM(rtCGM)といった血糖測定デバイスの組み合わせにより、様々な選択肢が考えられます1,2)。CSII療法では、チューブありのインスリンポンプとチューブレスのインスリンポンプ(パッチ式インスリンポンプ)に加えて、インスリンポンプとrtCGMが一体となったSAP療法の選択肢もあります3)。強化インスリン療法の主体であるインスリン製剤にも様々な種類があり、MDI療法のように、血糖の安定維持やケトン体産生の防止のための基礎インスリン(中間型、持効型製剤)と、食後血糖の制御や高血糖の補正のための追加インスリン(超速効型、速効型製剤)を組み合わせて治療する考え方が主流となっています1)。強化インスリン療法以外には、食品交換表やカーボカウントを用いて食事をコントロールする食事療法があります。また、補助療法として国内では2種類のSGLT2阻害薬が保険適用されています1,4)
MDI療法では、1日1回の持効型インスリン製剤投与で基礎インスリンを補いつつ、1日3回の食事に対して追加インスリンを補いますが、CSII療法では、インスリンポンプ1台で基礎インスリンと追加インスリンの二役を担うことができます1,5)。例えば、パッチ式インスリンポンプであるメディセーフウィズの場合、1種類の超速効型インスリン製剤のみを使用して、30分ごとに0.05単位/h刻みに投与をプログラムすることができ、時間帯によって投与量を増減させることで、生理的な分泌を模倣した基礎インスリン投与を可能にしています。また、追加インスリンは0.1単位刻みに投与可能ですが、設定単位を直ちに投与できるクイックボーラス、一定時間(30分~8時間)かけて設定単位を投与できるロングボーラス、クイックボーラスとロングボーラスとの組合せボーラスといった様々な投与方法が可能です。
近年では、CGMの測定値に基づき基礎インスリン投与量が自動調節されるHybrid closed-loop systemや基礎インスリン・追加インスリンともに投与量が自動調節されるClosed-loop system(AIDとも呼ばれる)が徐々に進歩してきており、完全に自動化されたシステム(人工膵臓)の実現に向けて開発が進んでいます(図1)3)

インスリンポンプを用いた治療方法の機能別分類

CSII療法導入の利点 患者さん1人ひとりに最適な強化インスリン療法を目指して

当科では、1型糖尿病治療として強化インスリン療法を患者さんに導入する際、「適切な基礎インスリンを補充する」、「目標血糖値を設定する」、「適切な追加インスリンを補充する」の3ステップを基本としてインスリン治療の調整を行っています。

適切な基礎インスリンを補充する

しばらく食事や追加インスリン投与をしない状況で、血糖値が一定に保たれていることが理想ですが、そうでない場合は基礎インスリン量の増減による調整が必要となります。年齢や時間帯によって必要とするインスリン量が異なることが広く知られており、海外では21~60歳の場合、午前5~6時ごろはインスリン必要量が最も多く、午後4~5時ごろはインスリン必要量が最も少ないことが報告されています6)。そのため、必要量が最も多い時間に合わせて単位設定を行うと午後に低血糖になりやすく、逆に必要量が最も少ない時間に合わせて単位設定を行うと明け方ごろに高血糖になりやすい傾向にあり、そのことを念頭に置いて基礎インスリンの単位数を調整します。

目標血糖値を設定する

適切な基礎インスリンの単位数を決定した後、SMBGやCGMで測定できる指標をもとに目標値を設定します。目標血糖値は特定の数値に固定するのではなく、患者さんと相談しながら一定の範囲として決定します。

適切な追加インスリンを補充する

目標血糖値を達成するためには、単位数計算機能による追加インスリン量の調整が必要です。追加インスリン投与後に生じる低血糖の主な原因として、残存インスリン量を考慮せずに単位数計算を行っていることが挙げられます。前回投与したインスリンの効果が切れる前に追加インスリンを投与する場合、効果が残っているインスリン量(残存インスリン量)を単位数計算時に追加インスリンの単位数から差し引くよう調整する必要があります。
以上の内容を踏まえると、インスリン調整の観点からみたMDI療法と比較したときのCSII療法の利点は、時間帯ごとに必要量の基礎インスリン単位数を設定できること、追加インスリン投与時に微量での投与や長期間かけた投与が可能であること、単位数計算機能により残存インスリンを考慮した追加インスリン量の調整が可能であることが挙げられます。また、患者さんのQOL面におけるCSII療法の利点は、カニューレを留置するため穿刺回数を減らせること、ボタンを押すだけでインスリン投与ができ操作が簡単であること、リモコンなどの付属機器から操作できるため、投与していることが気づかれにくいことなどが考えられ、それらの理由によりMDI療法からCSII療法に切り替える患者さんも多い印象です。

パッチ式インスリンポンプ外来導入の実際 当院で実践している3ヵ条

外来にてMDI療法からメディセーフウィズへの切り替え導入を行う際、次のCSII療法の始め方3ヵ条をもとに導入を開始する必要があると考えています。

① 患者さんのインスリン量調節における問題点を把握し、インスリンポンプ導入で本当に血糖コントロールの解決が期待できるのかを考える

メディセーフウィズ導入の際は、患者さんの抱えるMDI療法の問題点を十分に把握し、CSII療法の利点と照らし合わせて、切り替えの目的を明確にすることが重要です。加えて、良好な血糖コントロールを安全に維持するには、CGMを同時に導入したり、SMBGによる血糖値補正頻度を多くしたりすることで、血糖変動をより正確に把握することが重要です。また、患者さんにとって最適な治療法を機能面や費用面の観点から検討することが求められます。

② 事前の準備・説明を周到に計画する

患者さんがメディセーフウィズ導入を希望した場合は、図2のインスリンポンプ導入の流れに従って、外来導入の日にポンプが手元にあるようにスケジュールを組み、あらかじめ物品の手配を済ませておきます。
導入当日は最終の意思確認を必ず行い、テルモ社のHPからダウンロードできる「かんたんスタートガイドブック」を用いて、患者さんにインスリン補充からイージーパッチ・ポンプ取り付けまでの操作方法やインスリン投与方法、入浴時の取り扱いなどの説明を行います。導入の際は、基礎インスリン・追加インスリンの設定を行いますが、患者さんは来院前日に持効型インスリン製剤を既に投与しているため、一時基礎レート機能を使って、前日投与した時と同じ時刻まで投与比率を0%にしておく必要があります(かんたんスタートガイドブックp21~23参照)。ポンプ使用時にトラブルが発生した時は、テルモ社のコールセンターに連絡するよう案内し、緊急時にはペン型注入器に切り替えるよう指導を行うことも重要となります。特に、装着後に初めて入浴する時にトラブルが発生しがちであるため、導入の際にあらかじめ説明しておくべきであると考えます(かんたんスタートガイドブックp16参照)。また、導入から3日後に初回の注入セット交換を行いますが(かんたんスタートガイドブックp5参照)、当科では電話で連絡するか来院してもらい、交換手技に問題はないかを確認するようにしています。

インスリンポンプ導入の流れとポイント

③ 高望みをしない

導入開始直後は患者さんに対して高望みせず、まずは「ペン型でやっていることをポンプでできるようにする」、「注入セットをスムーズに交換できる」の2点を治療の第一目標として設定することが大切であると考えています。メディセーフウィズの場合、カードリッジへのインスリン補填や気泡の除去、イージーパッチの穿刺・装着などの操作は慣れるまで難しいため、前述した通り、当科ではかんたんスタートガイドブックを参照しながら説明し、必ず操作のコツや細かな注意点を覚えてもらってから帰宅してもらうようにしています。

CSII療法の導入を行う場合、病院に通って導入する外来導入と、短期間入院して導入する入院導入の2パターンが考えられます。入院導入の場合、食事や消灯・起床などの生活パターンが画一的であるため、入院中の血糖コントロールが簡単です。また、トラブルが生じたときに迅速に対応可能なため、特に高血糖を頻発する患者さんには有効です。しかし、入院中に全てのトラブルを経験するわけではないため、退院後の日常生活に戻り、環境が変わった時の対処が難しいことが問題点として挙げられます。一方、外来導入の場合は入院費用がかからず、日常生活を前提とした導入が可能ですが、インスリンポンプの手技を導入時に説明することが必要であり、必要最低限の説明がどの範囲までかを見極めることが求められます。
加えて、インスリンポンプの導入は医師がひとりで行うか、チームで行うかによってもそれぞれのメリット・デメリットが考えられます。医師が1人で導入を行う場合、私の経験上、説明から導入まで患者さん1人当たり約1時間半かかることが多々ありました。一方、チームでの導入の場合、チームスタッフの教育に時間がかかりますが、分担で導入作業を行うため1人ひとりの時間短縮につながります。当科では、CSII療法の導入を開始した2012~2013年から外来導入を実施しており、当初は私1人で導入を行っていましたが、現在は1型糖尿病の外来チーム体制をとっています。

続いて、当科の外来でMDI療法からの切り替えによりメディセーフウィズを導入した症例を紹介します。

症例1

糖尿病歴15年、網膜症や腎症などの合併症はない症例です。先天性溶血性貧血のためグリコアルブミン(GA)で血糖管理しており、入院直前はGAが約33%と高血糖を示しました。職業がシフト制の勤務形態で、シフトによってはインスリン製剤の注射ができず、高血糖をしばしば経験していたため、MDI療法からの切り替えを提案しました。基礎インスリン投与量および目標血糖値(80~140mg/dL)を決定し、isCGMの推定HbA1c値をもとにインスリン投与量を調整した結果、GAが20%台前半に低下しました(図3)。さらに、isCGMのスキャン頻度を増やしてもらうことで、より詳細な血糖変動が把握できることにより、グルコース値が70~180mg/dL範囲内である時間の割合(TIR)が増加しました(図4)。
isCGMからrtCGMに切り替え後は、グルコース値測定頻度がさらに増えたことにより、比較的良好な血糖コントロールを達成しています(図5)。患者さんからは「インスリン投与が簡便になった」、「チューブレスのためチューブが他所に引っかかることなく、快適性が上がった」などの感想を受けており、満足度の向上につながりましたが、MDI療法と比べて費用面で負担がかかることに対して懸念している一面もありました。

各血糖コントロール指標の推移
インスリンポンプ導入前後の血糖コントロール指標
ambulatory glucose profile(AGP)

その後の経過として、患者さんの職場で配置転換があり、インスリン注入器での投与が容易になったことにより、最終的にはMDI療法に戻すことになりました。本症例では、インスリン投与が十分にできる状況ではMDI療法でも血糖コントロールは良好であり、インスリン投与が十分にできない状況においてメディセーフウィズ導入が有用であったと考えられます。

症例2

20歳代男性、大学の友人には1型糖尿病患者であることを伝えておらず、人目を気にして食前のインスリン製剤投与ができない状況で、普段は食後にインスリン製剤を投与するものの、しばしば投与を忘れてしまうことを経験していました。そのため、スマートフォンを操作するように追加インスリンを投与することができるメディセーフウィズへの切り替えを提案し、導入に至りました。
当科では、導入開始時に基礎インスリンを設定する際、1時間あたりの単位数が長時間一定であったとしても、単位数は3時間区切りで設定するようにしています。そうすることによって、例えば患者さんとの電話で単位数の変更を伝える際に、「15~18時の単位数を減らしてください」というような簡潔な指示が可能です。本症例では、高血糖補正の際にインスリンを過剰に投与していたことにより低血糖になってしまうことが分かり、高血糖補正のインスリン単位数を減らすように指導しました。逆に、起床後の食事の際は急峻な血糖上昇があったため、朝食後の追加インスリン単位数を増やすよう指導しました。
その後、CGM測定により未明から明け方にかけて低血糖、夕方に高血糖であることが確認でき、インスリン単位の調整により一時は血糖コントロールが改善したものの、大学の長期休み明けに注入セットのカニューレ刺入部からのインスリン漏れなどのトラブルがあり、最終的にはMDI療法に戻しました。患者さんはメディセーフウィズ導入に満足感を示しており、良好な血糖コントロールを安全に維持するための試行錯誤が必要であったものの、メディセーフウィズ導入が患者満足度の向上に寄与したと考えられます。

まとめ

パッチ式インスリンポンプの利点としては、チューブに起因するトラブルが生じないこと、チューブレスのため動きやすいこと、リモートコントロールが可能であることなどの快適性・利便性が考えられます。一方で、パッチ式インスリンポンプ導入時はMDI療法からの切り替え時にトレーニングが必要であること、カニューレ閉塞などのポンプ由来のトラブルが起こりうることについて注意が必要となります。
 パッチ式インスリンポンプを導入後に良好な血糖コントロールを安全に維持するためには、インスリンポンプの特徴を踏まえながら、CSII療法の始め方3ヵ条を念頭に置いて治療を行う必要があると考えています。

CSII療法の始め方 3ヵ条

  • 1

    患者さんのインスリン量調節における問題点を把握し、インスリンポンプ導入で本当に血糖コントロールの解決が期待できるのかを考える

  • 2

    事前の準備・説明を周到に計画する

  • 3

    高望みをしない(「ペン型でやっていることをポンプでできるようにする」、「注入セットをスムーズに交換できる」の2点を治療の第一目標とする)

文献

  • 1) 日本糖尿病学会. 糖尿病治療ガイド 2022-2023. 文光堂. 2022. P43,61,71

  • 2) 日本糖尿病学会. リアルタイム CGM 適正使用指針(2021年12月16日 改訂). 2021.

  • 3) 小林哲郎, 難波光義. インスリンポンプ療法マニュアル(改訂第3版). 南江堂. 2020. P2,3

  • 4) 日本糖尿病学会. SGLT2阻害薬の適正使用に関する Recommendation(2020年12月25日 改訂). 2020.

  • 5) 日本糖尿病学会HP:1型糖尿病はどのように治療するのか?( http://www.jds.or.jp/modules/citizen/index.php?content_id=9

  • 6) Scheiner G, Boyer BA. Diabetes Res Clin Pract. 2005; 69(1): 14-21.

講演者

慶應義塾大学医学部 腎臓内分泌代謝内科

伊藤 新 先生

実施日
2021年11月18日
実施場所
糖尿病先端治療デバイスweb講演会(m3.com)

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